サッカーファンかつマーケティングコンサルタントの私には今、2つの課題意識がある。
【拡大画像や他の画像】
1つ目は日本代表のベスト16進出で熱くなったワールドカップ後のJリーグだ。この熱気をうまく国内へスルーパスしないといずれしぼんでしまう。J1の観客動員数を見ると、ワールドカップ前より後の方が若干増えている。しかし、実態は人気チームの浦和レッズが、埼玉スタジアム2002でホームゲームを開催すれば増え、なければ減るの一本足(筆者はレッズファンなので、多少の誇張はお許しください)。全体が盛り上がるまでには至っていない。
2つ目は“浮かばない日本産業界”である。大企業の中には国内の景気低迷に見切りを付けて、そっと群れを成して海外へ移住する流れもある。残された大多数のニッポン中小企業は、海外に行くか、事業を転換するか、いや継続するかさえ迷いに満ちている。
そんなかけ離れているようにみえる2つの課題に、同時に取り組む策が小さなイベントから見えてきた。スポーツを「する?みる?支える」拠点である墨田区総合体育館で開かれた「FUGA(フウガ)東京オリジナル応援Tシャツを作ろう!」ワークショップである。
●ひとつの仲間のような集い
7月18日の日曜日、カップルや子どもたちが参加するワークショップが開催された。Tシャツの背にはフットサルチーム「フウガ東京」のスローガン“One for ALL, ALL for One(1人はみんなのために、みんなは1人のために)”、前側には応援メッセージや絵を描こうというイベントである。まさに“1つの仲間”になれるような、和気あいあいとした集いだった。
「どうやって描くの?」と布用のマーカーペンを握りしめて迷う子どもたちがいれば、一心不乱の絵描きカップルも、緻密な作業に没頭する女性もいた。Tシャツは伸びる布地なので、なかなか描くのは難しい。会場では3人の選手(深津孝祐さん、揚石創さん、宮崎暁さん)が参加者にアドバイスをしたり、気軽にサインしたりもする。ごくろうさまです。
念のためにフットサルを解説すると、サッカーをふた周りほど小さくしたピッチで、5人対5人で競うミニサッカーのこと。女子も中高年でも参加できる手軽なスポーツである一方、あのロナウジーニョ(ACミラン)もプレイしたサッカーの登竜門でもあると言えるだろう。ところで、フウガ東京とはどんなチームなのか。
●強豪フウガ
フウガ東京は2008年度の全日本フットサル選手権大会で優勝したチーム。「Fリーグ(国内フットサル?トップリーグ)の1位、2位、3位をすべて破って優勝したんです」とフウガ東京の広報を務める斉田昌也さんは話す。
同大会はサッカーの天皇杯と同じく、全国のフットサル地域リーグで勝ち残ったチームと、シードされたFリーグチームとのトーナメント戦。日本一達成後、10人も選手を引き抜かれたが、2009年の関東リーグ(チームが所属する地域リーグ)で優勝した。
「フウガは強くなるために外から戦力を入れません。『FUGAでうまくなって、ここで育ちたい』という選手ばかりなんです」
2001年にサッカー強豪校、都立駒場高校と暁星高校のサッカー部メンバーが創設したフウガは、2004年に関東リーグに昇格。2007年にリーグ優勝、以来3年連続優勝。「強さの原動力は何ですか?」と聞いてみた。
「やっぱりチーム一丸で戦うところです」とは“アゲ”こと揚石創選手。
こんなエピソードを聞いた。フウガで10番を背負うテクニシャン、渡井博之選手は静岡でプレーしていた。ある日ふらりと「フウガでやりたい」と単身上京。仕事も決めず、家もないままにやってきたという。
Jリーグで時折見かける、選手交代を命じられて“爆発”する選手は醜い。チームのメンバーを信頼していれば、そんなことにはならないはず。フウガではそんなことにならない。その魅力や強さの源泉は“1つ”であるからだ。
●地域を盛り上げて
チームを支えるのは、ボランティアと地域社会。今回のイベントの企画立案者は法政大学4年生の斉藤亜裕美さん。7人いる学生スタッフの1人だ。
「フットサルクリニックやTシャツイベントを通じて、墨田区のみなさんに応援してもらいたいんです」
フウガの前身、FUGA Meguro時代からのファンである斉藤さんは、学生スタッフ募集のお知らせを見て参加。大学で「農業で地域活性化」「高齢化が進む多摩ニュータウンの活性化」など、地域社会の再創造をテーマに活動してきた彼女には強いリーダーシップがある。営業スタッフから企画担当となると、ネットワーク作りの才能を発揮して、墨田区観光協会や地元中小企業などに賛同者の輪を広げた。今回のイベントを協賛する久米繊維工業とはTwitter経由で知り合った。同社は太腹に“勝”Tシャツを提供、イベントPRにも参加する。
そんなフウガの実績と結束を認めたのが墨田区。フウガをホームチームに迎えた墨田区総合体育館では、7月24日、8月14日、12月4日(いずれも土曜)に関東リーグの試合を開催する。そして、地域スポーツクラブのスポーツドアあずまや両国倶楽部を通じて、フットサル教室も開く。
フットサルを核として、地域と企業がハコ(体育館)で1つになる。Jリーグよりも身近で、競技に参加しやすいし、支援もしやすい。大きな商業集積がなくても、大企業がなくてもできることがある。
●みんなが勝つために
ファンから「Tシャツにメッセージを書いて」とせがまれたある選手。「みんなで勝つ、ってどう書いたらいいかな?」と悩んでいると、ほかの選手たちは口々に「win by allじゃだめ?」とアドバイスする。
それはジェフユナイテッド市原?千葉のスローガンなので、いただくのはちょっと問題がある(笑)。そこで1つ、言葉の支援をしよう。「One for ALL, ALL for One」のOneをちょいと変えてみた。
“WON for ALL, ALL for WON”――「勝利はみんなに、みんなは勝利のために」
分厚く支援してくれるみんなを癒やしてくれるのは、やはり「勝利」。フウガではFリーグとの入れ替えがある2012年(東京スカイツリーの開業年)に昇格を目指す。まずは7月24日の墨田区総合体育館の試合を見に行こう。チームだけの勝利ではない。地域や企業、住民、みんなの勝利のために。【郷好文,Business Media 誠】
【関連記事】
お客さまを笑わせよう! 口も心も開くランチコンサルの秘密
神保町「古書大入札会」で電子書籍の未来を考えた
今、“何でもない立地”が増えている危機
引用元:
信長 rmt